NGS解析のためにrRNA除去ツールを使用したいがどんな種類があるか知りたい、またどれを使うのが良いのか知りたい。
この記事は上記のような方を対象に記事を作成しています。
こんにちはtomoです。
NGS解析、特にRNA-seqなどのRNA配列解析ではrRNA(リボソーマルRNA)の除去は避けて通ることのできない課題ですよね。
各社、様々なrRNA除去キットを販売していますが、どれを使用するべきなのかわからない、そもそもどんな種類のRNA除去キットが存在するのかもよくわからないという状況の人は決して少なくないのではないでしょう。
私自身もかつては研究所で研究活動に従事していた際に悩むことの多い問題でした。
そこで今回は各社で販売しているrRNA除去キットをまとめて記事にしてみました。
先に結論を言うと、各社様々なキットを販売しているが、実験条件や使用するサンプルなど実験には複雑な要因が組み合わさるため。一概にこの製品がベストと言うことはできません。
ただ、その中でもできるだけ、各除去キットの特性をお伝えできればと思います。
プローブ系
rRNA除去キットプローブ系はrRNAの配列と相補鎖を組むようなプローブし、これを利用してrRNAを得意的に除去します。
さらにこのプローブはビオチン化などの修飾が施されており、ストレプトアビジンビーズを使うことでライセートに加えたプローブを再び分離することができます。
マグネットスタンドさえあれば誰でも簡単に操作ができます。
実験時間も8サンプルくらいまでであれば1時間程度で処理が可能です。
ただし、プローブとrRNA配列の相補性に依存しますので、各kitで使用できる生物種が決まってくるので注意が必要です。
また、プローブとrRNAが相補鎖を組むことが重要ですので、保存状態が悪く、RNAが分解されてしまているサンプルですと綺麗にRNAが除去できないことがあります。
なので、実験を行う前にAgilentのBioAnalyzerやTapeStationなどでサンプルの質をチェックしておくことを推奨します。
AgilentのBioAnalyzer:https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=51
AgilentのTapeStation:https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1006089
Illumina Ribo-Zero Plus rRNA Depletion Kit
こちらはNGSの配列解析では最前線をいくイルミナ社が発売しているrRNA除去キットです。
以前までは生物ごとに細かくプローブの種類が分けられて販売されていたのですが、現在は真核生物同士だけでなく、バクテリアも一括して使用できるキットが販売されているようです。
こちらのキットは私自身も何度も使ったことがありますが、操作が簡便でとても扱いやすいです。
rRNAの除去率もまずまずです。ただし植物細胞のキットは少し質が劣ります。
それでも十分に解析に用いることはできましたが。
プローブ系のキットですのでサンプルの保存状態が悪く、RNAが分解されてしまっていると除去率がガクンと落ちますので注意です。
プローブ系のキットを使って実験を行う予定でどこの会社のキットを使って解析すれば良いかわからないと言う人はまず選択していただくことをおすすめできる製品です。
そのほかにも各社から同様の製品が販売されている。
私自身はイルミナのRiboZeroとサーモフィッシャーのRiboMinusを使用した経験があります。
どちらもヒトやバクテリアに関しては一定の効果が期待できます。
また、いずれも植物用の製品が販売されていますが、ヒトの製品よりも両者とも機能は劣っている印象です。
よって性能自体にそれほど大きな違いはないのですが、どちらか迷われてる方はRiboZeroを購入することをお勧めいたします。
理由は、サーモフィッシャーのRiboMinusだと処理後の溶液量が数百µlになってしまうからです。
RiboZeroの場合は100µl程度です。
プローブキットで処理した後に濃縮をかけるかと思いますが、その際にRiboMinusだと、溶液量が多すぎて扱いづらいのが難点です。
RiboMinus(Thermo Fisher Scientific)
RiboCop rRNA Depletion Kit (Human / Mouse / Rat) (バクテリアの取扱もあり)
NEXTFLEX® RiboNaut™ rRNA Depletion Kit (Human / Mouse / Rat)

酵素系 rRNA除去システム
CRISPRclean rRNA Depletion Kit (Human or Bacteria)
ライブラリのクオリティーチェックについては近日別の記事にて紹介する予定です。
Jumpcode Genomics社製品が発売する製品。
正直こちらの製品は使用したことがありません。
原理は簡単で、rRNAと相補鎖を組むgRNAを加えてCRISPRで切断する、というものです。
この手法はこの製品以外にも任意の配列を切断するためにNGSライブラリの解析の下処理として使用されていることがある、実績のある手法です。
既存の除去キットでうまくいかない方はこの製品を試してみるのも手かもしれません。
NEBNext® rRNA Depletion Kit (Human/Mouse/Rat)
こちらはNEBが販売するrRNA除去キットです。
RNase Hと呼ばれる、DNAとRNAが相補鎖を組んでいるRNAを切断する酵素を利用してrRNAを除去するキットです。
原理は単純で、rRNAの配列と相補鎖を組むことのできるようデザインされたssDNAプローブを加え、RNA/DNA二本鎖を作ります。
ここにRNase Hを加えることによってRNA/DNA二本鎖を構成しているrRNA配列のみを選択的に分解するします。
その後、残存したDNAプローブを除去するためにDNA Iと言う酵素で処理して完了です。
トータルの反応時間な2時間程度で実験操作を行う時間はわずか8分とされています。
FFPEなどのRNAの分解されているサンプルでも綺麗にrRNAが除去できるとされていますが、とても質の高いFFPEで試験が行われている可能性があるので、一般的なラボで保存されているFFPEや質の悪いサンプルにどこまで適用可能かは実際に実験してみないとわからないと思います。
また、プローブ系と同じでrRNAとプローブがしっかり相補鎖を組んでくれないと実験系が動きませんので、やはり極端にクオリティーの低いサンプルでは使用は難しいのではないかと思います。
Zymo-Seq RiboFree Total RNA Library Kit
- 逆転写により形成されたcDNA-RNAハイブリッドを,変性により一本鎖にする。
- rRNAのように非常に豊富に存在するRNAは,反応液中の相補的なcDNAと再度ハイブリダイズする可能性が高く,rRNAとcDNAの二本鎖を形成する。
- 形成した二本鎖に酵素が結合し,二本鎖からrRNAだけを残してcDNAを分解する。反応が進むにつれて,相補的なcDNAと比較して高濃度のrRNAが存在することになるため,rRNAなどに相補的なcDNAが試料中から枯渇するまで反応はさらに促進される。
- 非常に豊富に存在するRNAを酵素により枯渇させると,残ったRNAが目的のRNA集団となる。この反応は分子動力学に依存しているため,反応への投入量が多いほど反応は速く進み,投入量と培養時間の間には逆相関の関係が生じる。
と言うことらしいです。
ポイントとしては、逆転写によってTotal RNAを全てcDNA化すること、cDNAとRNAの相補鎖を一度といた後、試験管内で再結合させると、もともと存在量の多いrRNAは再びRNA/DNAの相補鎖を組む確率がmRNAよりも高いことを利用してrRNAを優先的に分解していることでしょうか。
さらに、上記のようにサンプル内に存在すRNA配列を利用してcDNA化されたrRNA配列を分解しているので、生物種に依存しないでキットを使うことができること、が挙げられます。
理論上は良さそうですが、ほんとにmRNA配列は分解されてしまわないのか不安になってしまうところですよね。
実は私自身も、このキットを使って実験をおこないプローブのキットと性能を比較したことがあります。結果は問題なく使えそうでした。
確かに、発現量の少ない遺伝子ではばらつきはみられたのですが、ある程度の発現量の遺伝子では結果が相関関係にありました。
また、こちらのキットはRNAが分解されて質の低くなったサンプルに対しても有効でした。
特にプローブ法で行った実験と比較すると除去率が20倍以上違ってくることもありました。
FFPEなどの低品質のサンプルを用いて解析をおこないたいけど、どのキットを使えばいいか迷っているという方にはおすすめの製品です。
しかもこの製品は、プローブ系の実験よりもさらに操作が簡単です。
AmpliSeq系
こちらはこれまで紹介してきたようにサンプルの中のrRNA配列を除去すると言うコンセプトとは一線を画します。
AmpliSeqではまず、サンプルの中のRNAを逆転写によってcDNAにします。
これに対して最適にデザインされたプライマープール(ゲノムの隅々まで増幅するように設計されたプライマー群)を投入し、増幅をおこないます。
このようにして増えてきたPCR断片(Amplicon)のみを次世代シーケンサーによって網羅的に解析することによりRNA量を網羅的に解析することができるのです。
この手法ですと、PCR増幅をかけるときのプライマープールにはrRNAの配列はもちろんデザインされていませんので、rRNAを除去せずしてrRNAの配列情報を取り除くことができます。
また、PCRで増幅がかかる程度にサンプルの状態が保たれていれば良いので、少し保存状態の悪いサンプルでも解析を行うことができる可能性があります。
プローブでRNAを除去する場合、サンプルの質が悪いとrRNA配列も断片化されており、プローブとハイブリダイズしにくくなっていますのでrRNAの多くがサンプルの中に残存してしまう可能性があります。
しかし、AmpliSeqの場合はPCRで増えてきた配列のみを解析にかけることができるのでPCRさえうまくかかってしまえば、rRNA配列を気にする必要はないはずです。
AmpliSeq for Illumina Transcriptome Human Gene Expression Panel(for illumina)
まとめ
今回はrRNA除去ツールについて消化させていただきました。
どの製品も一長一短であるため、ご自身の行いたい実験に合わせて最適なものを選択するのがベストだと思います。
また、製品によって対応する生物種が異なっているのも注意点です。
この記事が少しでも皆さんの実験に役立てば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
コメント